身体拘束の10%減算は「していない事業所」も対象|要件と対策を解説

虐待防止措置の未実施
1パーセント減算
身体拘束適正化の未実施
10パーセント減算
見られるのは
頑張りでなく記録

シリーズ最終回は、お金の話です。虐待防止措置と身体拘束の適正化は、やらないと報酬が減ります。しかも一度きりではなく、毎年です。ここは経営者や管理者だけの話に見えますが、記録や研修を実際に回すのは現場の全員。だからこそ全員で押さえておきたい内容です。減算の要件、運営指導で指摘されやすいポイント、そして毎年ラクに回すための仕組みまで解説します。

1対策しないと、報酬はいくら減るのか

令和6年度の障害福祉サービス報酬改定では、2種類の減算が設けられています。

虐待防止措置 未実施

全サービス共通

1

パーセント減算

委員会、研修、担当者のいずれかが欠けると対象になります。

身体拘束の適正化 未実施

施設系・居住系

10

パーセント減算

以前は1日あたり5単位でしたが、見直しにより所定単位数の10パーセントへ大幅に強化されました。

いずれも所定単位数に対する減算。とくに身体拘束適正化の10パーセントは影響が大きくなります。

注意年間では数十万円から、百万円を超えることもあります。しかも一度きりではなく、要件を満たすまで毎年続きます。減った分は、そのまま「できることが減る」ことを意味します。

ここが誤解されやすいところです。身体拘束の10パーセント減算は、拘束をしている事業所への罰ではありません。拘束をしていない事業所でも、適正化の体制(委員会、指針、研修、記録)が整っていなければ対象になります。「うちは拘束していないから関係ない」が最も危ない状態です。

2減算されない要件は、この2本立て

逆にいえば、要件を満たし続ければ減算は防げます。要件は次の2本立てです。

虐待防止措置1パーセント減算の回避

  • 委員会の定期開催と周知虐待防止委員会を定期的に開き、結果を全職員に周知する
  • 研修の定期実施虐待防止のための研修を、定期的に実施する
  • 担当者の設置上記を適切に行うための担当者を置く

身体拘束の適正化10パーセント減算の回避

  • 適正化の検討委員会身体拘束等の適正化を検討する委員会を定期開催し、結果を周知する
  • 指針の整備身体拘束等の適正化のための指針を整備する
  • 研修の定期実施職員に対し、適正化のための研修を定期的に行う
  • やむを得ず行う場合の記録3要件と手続きを踏み、態様や時間などを記録する

見比べるとよく似ていますが、身体拘束の適正化にだけ指針の整備とやむを得ず行う場合の記録が入っている点が違いです。虐待防止のほうには、担当者の設置があります。委員会も研修も、忙しい中で開催するのは大変ですが、実行しなければ減算になります。

3運営指導で指摘されやすいポイント

「やっているつもり」でも、見える形がないと指摘されます。行政の担当者によって着眼点は変わりますが、よくある指摘は次のとおりです。

多くの事業所に共通する指摘

  • 虐待防止研修が計画的に実施されていない。単発で1回やって終わりになっている
  • 委員会が報告だけになっている。予防のための検討がされていない
  • 職員が相談しやすい環境が整っていない

事業所ごとに指摘される点

担当者が固定ローテーションされておらず、負荷が偏り、視点も広がらない。
事例検討の偏り問題が多い利用者にばかり偏り、他の方の小さな変化が拾えていない。
定期面談がない管理者と職員が定期的に話す場がなく、相談の機会がない。
権限の集中管理者とサービス管理責任者が同一で、チェックが働きにくい。

事例検討の偏りは見落とされがちです。虐待は小さなところから徐々にエスカレートします。問題が表面化している方だけでなく、落ち着いて見える利用者にも目を向けることが予防になります。

4見られるのは頑張りではなく、記録

ここが最も大事な考え方です。委員会も研修も、議事録や受講記録がなければ、運営指導では「していない」とみなされます。厳しいようですが、「やりました、頑張りました」で認められるなら誰でも通ってしまうため、行政の側からすると当然の運用ともいえます。

そして「記録がある」と「すぐ取り出せる」は別のことです。次のような状態になっていないでしょうか。

紙が棚のどこか

担当者しか保管場所を知らず、探すのに時間がかかる。保存年数分がたまると、量も相当になります。

表計算ファイルが属人化

作った職員が退職して更新が止まる。誰でも使える形にしておく必要があります。

指導の直前に大慌て

「あの記録どこ」と探し回る。日頃から見える化されていれば起きません。

書いて残す だけでなく 誰でも、いつでも そして すぐ取り出せる

記録は「作ること」より「取り出せること」。ここを仕組みにしておくのが鍵です。

5毎年ラクに回す、研修と記録の仕組み

続けるコツは、意欲に頼らないこと。いつやるかを先に決めて、カレンダーにはめ込むのがいちばん確実です。

やること頻度の目安決め方のコツ
委員会3か月に1回(四半期ごと)開催月と曜日を固定し、年間の予定として先に押さえる
研修入職時と、全職員年1回入職時研修はメニューを定型化し、毎回作り直さない
指針の見直し年度末に必ず年度末の定例業務として、チェック項目に組み込む

年間カレンダーに落とし込む。繰り返し予定として登録しておけば、忘れることがなくなります。

研修を続けようとすると、現場では次のような壁にぶつかります。シフト制で全員を1か所に集められない。新人が入るたびの単発研修は現実的でない。誰がいつ何を受けたかの管理に手間がかかる。ここを解決できると、仕組みは一気に回りやすくなります。

小規模でも大丈夫

  • 委員会は法人単位でまとめて設置してよい
  • 外部委員はオンライン参加でもよい
  • 外部研修への参加で実施とみなせる場合もある

やり方はひととおりではありません。自事業所の規模と人員に合った形を選べば、負担を抑えながら要件を満たせます。

6まとめと、明日からの「ひとつ」

全3回の内容を、3つに絞って振り返ります。

知ることが予防になる身体拘束も虐待も、悪い人ではなく「良かれと思って」起きる。だから知識がそのまま予防になります。
対策しないと毎年減る報酬が毎年1パーセント、または10パーセント減り続ける。金額は決して小さくありません。
鍵は続けられる仕組み委員会、研修、記録を、無理なく毎年回すこと。意欲は時間とともに薄れます。

大切な視点虐待かどうかを決めるのはされる側です。「自分がされたら嫌か」を問い直し、本人のための支援が「支援者が困らないための支援」にすり替わっていないか。迷ったら、一人で抱えず相談しましょう。

今日、ひとつだけ決めてみる

研修を受けた直後は「やらなければ」という気持ちがありますが、時間が経つと必ず薄れます。だからこそ、いまひとつだけ決めてしまいましょう。

すぐできること

研修や委員会の日程を、年間カレンダーに入れる。繰り返し予定として登録する。

記録と仕組みのこと

議事録や受講記録の保管場所を一本化し、誰でも取り出せる状態にする。

チームで話すこと

「虐待が起きやすい職場の構図」を、次の会議で全員で振り返る。

完璧を目指す必要はありません。ひとつ動かせば、それが減算対策であり、利用者を守る一歩になります。

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