障害者虐待の5つの類型とは|最新データで見る件数・原因・通報義務
第1回では身体拘束を取り上げました。第2回は、その身体拘束を含む障害者虐待の全体像です。「令和の時代に虐待なんて、そうそう起きないのでは」と感じる方もいるかもしれません。しかし厚生労働省の全国データを見ると、件数は前年度より増えています。しかも最も件数が多い場所は、共同生活援助(グループホーム)です。数字で現実を確認したうえで、なぜ起きるのか、どうすれば早く気づけるのかを見ていきましょう。
1虐待は、実はこんなに身近
厚生労働省の令和6年度の調査結果から、障害者福祉施設従事者等(つまり事業所の職員)による虐待の数字を見てみます。
5,870件
年間の相談・通報
前年度比 プラス4.5パーセント
1,267件
虐待と判断された事例
前年度比 プラス6.1パーセント
2,010人
被害を受けた障害者
虐待による死亡は0人
厚生労働省「令和6年度 障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)」全国、2025年12月公表。
注目したいのは、相談・通報も、虐待と判断された件数も、前年度より増えている点です。減っているわけではありません。
これは特別な施設の話ではありません。ごく普通の事業所で、日々まじめに働く職員のあいだで起きています。遠い場所の出来事ではなく、自分たちにも起こり得ることとして受け止めることが大切です。
2どこで、誰による虐待が多いのか
では、どこで起きているのか。事業所の種類別に件数を見てみましょう。
事業所の種類別の件数(全国・令和6年度)。生活の場である共同生活援助が最も多くなっています。
1位は共同生活援助(グループホーム)、2位は障害者支援施設。暮らしの場が上位を占めています。次に、誰による虐待が多いのかを職種別に見ます。
職員の職種別の件数(全国・令和6年度)。利用者と直接ふれあう機会が多い職種ほど件数が多くなります。
注意件数が最も多いのは生活支援員ですが、2位は管理者です。人数の多さだけでは説明がつきません。指導する立場だからこそ、自分の関わり方を振り返る機会が必要だといえます。
3クイズ3・障害者虐待の5つの類型
ここからが本題です。障害者虐待には5つの類型があります。
障害者虐待の「5つの類型」、いくつ挙げられますか
叩く、つねる以外にも、言葉、世話、お金の形があります
過去に虐待防止研修を受けたことがある方は、復習として思い出してみてください。5つすべて言えるなら、新人スタッフに教えられるレベルです。答えは次のとおりです。
| 類型 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 身体的虐待 | 暴力や体罰で体に傷や痛みを与える。身体拘束もここに含まれる | 叩く、つねる、過剰な投薬、縛る |
| 性的虐待 | わいせつな行為をする、または障害のある方にわいせつな行為をさせる | 不必要な接触、撮影、画像を送らせる |
| 心理的虐待 | 暴言、拒絶、差別的言動などで著しい心理的外傷を与える | 「早くして」と怒鳴る、無視、侮辱、交換条件 |
| 放棄・放置 | 食事、入浴、排泄など必要な世話をせず、心身を弱らせる(ネグレクト) | 食事を与えない、不衛生な放置、必要な支援を怠る |
| 経済的虐待 | 本人の同意なく財産や年金、賃金を使う。必要な金銭を渡さない | 年金の無断使用、賃金未払い、小遣いを渡さない |
障害者虐待の5つの類型。身体的虐待だけが虐待ではありません。
4件数で見ると、身体的と心理的が拮抗している
類型別の件数を見ると、意外な事実がわかります。
類型別の件数(全国・令和6年度。1件で複数に該当する場合あり)。身体的虐待は51.6パーセント、心理的虐待は47.3パーセントを占めます。
叩くなどの身体的虐待と、言葉による心理的虐待がほぼ同じ件数です。言葉も虐待になると知っておくこと自体が、抑止力になります。
忙しさの中で、つい出てしまう言動
心理的虐待は「自分はやらない」と思いがちですが、切羽詰まった場面ではつい出てしまうものです。具体例を先に知っておくと、踏みとどまれる機会が増えます。
威嚇・侮辱
「早くして」「何度言えばわかるの」と強い口調で責める。
意欲をそぐ
「どうせできないでしょ」など、自立心や意欲を下げる言葉をかける。
交換条件
「言うことを聞かないと、これはなし」と条件で行動を縛る。見落としがちな類型です。
もうひとつ、無視や孤立も心理的虐待です。呼びかけに応じない、わざと関わらず孤立させる。冷静なときには誰もやらないことが、余裕のないときに出てしまいます。
5なぜ起きるのか。発生要因と職場の構図
市区町村が挙げる発生要因(複数回答)を見ると、原因の傾向がはっきりします。
虐待の発生要因(全国・令和6年度、複数回答)。1位は知識と技術の問題です。
1位は教育、知識、介護技術等に関する問題。つまり多くの虐待は、悪意ではなく「知らない、できない」から起きています。だからこそ、虐待防止と身体拘束適正化が法定研修として定められているのです。学ぶ機会そのものが予防に直結します。
虐待が起きやすい職場の構図
環境を変えれば、起きやすさは下げられます。次の6つのうち、自事業所に当てはまるものがないか確認してみてください。
注意とくに密室は危険です。誰かに見られている環境では自制が働きますが、誰も見ていない環境は人を変えてしまいます。これは個人の資質の問題ではなく、環境の問題として会社全体で取り組む必要があります。
6見つけにくい性的虐待と、通報という義務
先ほどのデータで性的虐待は141件と、件数としては多くありませんでした。しかしこれは潜在化しやすく、発見が遅れがちだからだと指摘されています。
密室、二人きり
人目につきにくい場所や時間を選んで行われ、継続しやすい。
スマートフォンの悪用
カメラで撮影や記録をしたり、SNSで画像を送らせる悪質な事案もあります。
通報されにくい
二次被害を恐れ、ご本人やご家族が相談や通報をためらいがちです。
だからこそ、気づける、言える、残せる体制が守りになります。異性の利用者とばかり接するといった変化に他の職員が気づける目、安心して相談できる環境、そして日々の支援記録を残して後から振り返れる状態。この3つです。
放置すると、必ずエスカレートする
虐待には、小さなことから始まって徐々に深刻化するという性質があります。
「これくらい」から始まり、重大な結果につながる。深刻な事案には通報義務の不履行が共通しています。
通報は義務です
障害者虐待防止法では、虐待を受けたと思われる障害のある方を発見した人に、市町村への通報が義務づけられています。確証がなくてもかまいませんし、同僚のことであってもです。疑いの段階で通報してよく、通報したことで通報者が不利益な扱いを受けることは法律で禁止されています。
- 利用者の変化に気づく。急な情緒不安、けが、おびえなど、小さなサインを見逃さない
- 相談しやすい雰囲気をつくる。「おかしいかも」を職員同士で言い合える空気に
- 窓口を全員が知っている。市町村の虐待防止センター等の連絡先を事業所内で共有する
- 記録して共有する。気づいたことを記録に残し、委員会や会議で早めに共有する
減算はお金の話ですが、その先にあるのは利用者の命や人生です。早く気づき、声を上げ、記録する。これが最悪の結果を防ぎます。
次回・第3回は、いよいよお金の話です。虐待防止措置と身体拘束の適正化を怠るといくら減るのか、運営指導で何を見られるのか、そして毎年ラクに回す研修と記録の仕組みを解説します。
ケア・オール システムサポート
気づける、言える、残せる体制になっていますか
ケア・オールは障害福祉事業所の業務をシステムでサポートします。日々の支援記録を全員で共有し、小さな変化に早く気づける状態をつくります。
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