【障害福祉・GH向け/第1回】処遇改善加算とは?令和8年度改定の全体像を解説

「加算はひととおり取っているけれど、要件を正しく満たせているか不安」。そんな障害福祉サービス(共同生活援助)の経営者・管理者の方へ。本シリーズ(全5回)では、令和8年度改定に対応した処遇改善加算を、制度の背景から実務までやさしく解説します。第1回は「全体像としくみ」です。

1加算の見直しで経営は変わる(埋蔵金の話)

障害福祉サービスの加算は種類が多く、要件も細かいため、「本来取れるはずの加算を取り逃している」事業所が少なくありません。実際にあった事例をご紹介します。

埼玉県のあるグループホーム(定員5名・入居5名)は、月の給付費が約90万円でした。しかし利用者の障害支援区分は6・5・5・4・3と高く、5名のうち4名が重度障害者の支援対象。それにもかかわらず、算定していたのは夜間支援体制加算と基本部分がほぼ中心でした。要件を確認して算定できる加算を整えたところ、給付費は月あたりプラス140万円になりました。

見直し前
約90万円
見直し後
約230万円

要件を整えて算定できる加算を取り切った事例(埼玉県・定員5名。月あたりプラス140万円)

過去にさかのぼれる「埋蔵金」も。見直せるのはこれからの請求だけではありません。多くの事業所が保管する過去5年分の請求データを点検すると、取り逃していた加算が見つかり、再請求できる金額が出てくることがあります。

2処遇改善加算とは(制度の沿革)

処遇改善加算は、職員の給与にしか使えないという特殊な性質を持つ加算です。まずは制度の歩みを、時系列で押さえましょう。

  • 平成24
    処遇改善加算が創設(助成金からスタート)
  • その後
    キャリアパス要件・職場環境等要件が拡充
  • 令和元
    特定処遇改善加算(経験・技能のある人材を重点化)
  • 令和4
    ベースアップ等支援加算
  • 令和6
    これらを一本化(取得しやすく)
  • 令和8年6月
    さらに拡充(今回のポイント)

国はもともと、この加算を「ぜひ取ってほしい加算」と位置づけています。それまで取得率が低かったため、一本化によって取得を後押ししました。

3なぜ国は作ったのか(グループホームの収益構造)

一般企業は単価と利用者数の両方で売上を伸ばせますが、グループホームは定員が決まっているため、給付費に上限があります。その結果、経営努力が職員の給与に還元されにくい構造になっています。

一般企業

利用者数を増やして売上を伸ばせる

グループホーム

定員で頭打ち(上限あり)

注意「仕事はきついのに給料が低い」というイメージが定着すれば、人材が集まらず、日本の福祉制度そのものが立ち行かなくなります。この危機感から、国は職員の給与にしか使えない処遇改善加算を作りました。

4データで見る福祉業界の現実

なぜ令和8年に加算がさらに拡充されたのか。背景には人材をめぐる厳しいデータがあります。

「入りにくい」業界になっている

産業別の入職率を見ると、福祉・介護は全産業平均をやや下回り、離職の多い宿泊・飲食などの業種と比べると大きく低い水準です。国はこの差の大きな要因を「賃金」と見ています。

福祉・介護
15.6パーセント
全産業平均
16.4パーセント
宿泊・飲食業
約2倍

入職率(入ってくる人の割合)の比較イメージ。福祉・介護は人が入りにくい水準にある(宿泊・飲食業は全産業平均の約2倍)。

採用は難しく、必要な人は増え続ける

福祉介護現場の採用率はコロナ以降に低下傾向で、外国人材の受け入れ拡大や他業界の大幅な賃上げにより、さらに難しくなっています(一方で離職率は少しずつ改善)。加えて、日本の人口が減る中でも障害のある方(とくに精神障害)は増加し、介護・福祉人材の需要と供給のギャップは今後さらに拡大すると予想されています。

必要な人材
増え続ける
支えられる人材
横ばい

需要と供給のギャップが拡大するイメージ。国が報酬改定を待たず加算を拡充した背景です。

5加算の4つの目的と対象範囲

要件を読み解くと、国がこの加算に込めた4つの目的が見えてきます。

人材の確保と定着

職員を集め、辞めない職場に

サービスの質の向上

支援の質を高める

キャリア形成の見える化

キャリアパスをつくる

働きやすい職場環境

離職を減らす環境づくり

取得率は一本化で大きく上昇

一本化前(特定加算・ベースアップ等支援の時点)は約6割にとどまっていた取得率が、一本化後は約95パーセントまで上昇。今後の焦点は「要件を正しく満たせているか」です。

一本化前
約60パーセント
一本化後
約95パーセント

処遇改善加算の取得率の推移イメージ。一本化でほぼすべての事業所が取得しています。

対象は柔軟です。国が示す質疑応答では、法人本部の人事・事業部などの職員でも、加算の算定対象となるサービス事業所の業務を行っていると判断できる場合は、賃金改善の対象に含められるとされています(本部がその事業所に関与している場合など)。

6加算率と3つの要件・特例要件(全体像)

令和8年6月から、加算1・加算2にそれぞれ「イ・ロ」の区分ができ、加算率が引き上げられました。目指すべきは上位の「1のロ」または「2のロ」です。加算3・4は取らず、要件を整えて上位区分へ移行しましょう。

加算4 加算3 加算2のロ 加算1のロ

加算3・4は避け、加算2のロまたは加算1のロを目指す。

注意具体的な加算率はサービス種別・区分により異なり、改定でも変わります。自事業所の正確な加算率は、必ず最新の告示・ハンドブック等でご確認ください。

3つの要件

加算の取得には、次の3要件があります。詳しくは第2回以降で一つずつ解説します。

  • キャリアパス要件(任用・賃金体系、研修、昇給、賃金額、専門職員配置)。第2回・第3回で解説します。
  • 月額賃金改善要件(加算額の一定割合を毎月の賃金へ)。第4回で解説します。
  • 職場環境等要件(働きやすい職場づくり・生産性向上)。第5回で解説します。

ねらうは「特例要件」による上位区分

令和8年6月からの特例要件では、生産性向上や共同化の取り組みを多く行うと加算率が上乗せされます。皆さんはこの上位区分(ロ)を目指すのがおすすめです。次回以降、その具体的な満たし方を見ていきましょう。